山田:私たちは1994年に創立された「長岡造形大学」1期生として出会いました。東京出身でランドスケープに興味を持っていた私と、新潟出身で視覚デザイン専攻だった彼(小林)ではそれぞれ育ってきたバックグラウンドが異なるのですが、音楽の趣味が同じだったりしたことから一緒にいる時間が長くなって。ふたりとも東京で就職し、2004年ごろから「SPREAD」というクリエイティブユニットとして活動するようになりました。
小林:彼女(山田)がアイディアやコンセプトを考えるクリエイティブ・ディレクターで、ぼくがそれらをカタチに落とし込んでいくデザイナーという感じです。彼女はぼくひとりからは生まれないような発想を持っているし、着想の仕方もユニーク。互いに補完しあうようなイメージでしょうか。
小林:その原点となるのが、ぼくらの作品「Life Stripe」(2004年~)ですね。これは1日24時間を21の行動に色分けし、時間軸で表現したもの。たとえば睡眠は紺、仕事は赤、デートはピンク、食事はオレンジ、くつろぎは黄緑、といったように色分けしています。いままでのべ1万6000人の1日を採集していて、それぞれに「Life Stripe」があります。
山田:この作品が生まれた背景には、私たちの友人との物語があります。ある時、大切な友人が落ち込んでしまったことがあって、家から出られなくなってしまったんです。心配した私たちは、その友人を家に招き、一緒に暮らすようになりました。すべてにやる気をなくしてしまった友人は、家でもずっとぼーっと過ごしているようで。帰宅した私たちが『今日は何をしていたの?』と聞くと『何もしていない』と答えるんです。でも実際は水を飲んだ気配があるし、家のなかを少しは移動しているみたい。そこで1日の行動記録を交換し始めたところ、徐々に友人は活力を取り戻し、社会復帰を果たしました。その後、1日の行動を色に置き換えてみてはと考えたのが、作品『Life Stripe』が生まれたきっかけです。
小林:人間だけではなく、動物の「Life Stripe」もあるんです。どんな生物の1日も平等に美しいものだと感じますよね。
山田:色にはそれぞれ人間の感覚や感情を揺り動かすエネルギーがありますが、どんな気持ちを呼び起こすかは、これらの作品を観る人次第。私たちの仕事はそのトリガー(きっかけ)をつくるだけだと考えています。
小林:色ともうひとつ、花をテーマにしています。16年という長い時間に想いを馳せていくうちに、時間は花のようなものだなと思うようになりました。花とは、種子が芽吹いてつぼみを結び、花開いてやがて散る。そしてまた種子となる。生命の連鎖を連想させる存在でしょう。また芸術表現としても決して古びることなく、いつも人と共に在るモチーフとしての花を時間の表現として使ってみようと考えました。花開く瞬間は長い一生の一瞬に過ぎませんが、その一種が永遠を象徴している、というような意味あいも含んでいます。
山田:この16年間、「ミッドランドスクエア」のアトリウムを通りすぎた方々の想いを色で表現できたらいいなと思います。楽しいとき、幸せなときがあれば、そうじゃないときもあったはず。とくにこの3年間はパンデミックで辛い想いをされた方もいるでしょう。そのいろいろな想いを抱えた人たちの足跡に色とりどりの花が咲くような……そんなイメージです
山田:それはご覧になる方の気持ち次第です。でも、いろいろな記憶を呼び覚ましたり、感情を動かすきっかけになってくれたら、私たちもうれしいです。