— グローバルな活動を視野に入れたスタイル

東京の下町で三代続いたテーラーが実家の干場義雅さんは、物心ついたころから父親の仕事場が遊び場だったといいます。思春期には、堅苦しいと感じたスーツへの反発心もあり、アメカジや渋カジといったストリートスタイルに傾倒しましたが、ファッションへの情熱は高まる一方でした。
「高校卒業後に本場の洋服に触れたいと思い、セレクトショップでアルバイトを始めました。週末は雑誌の読者モデルもしていたのですが、そうしているうちにつくる側になりたいと思って」

その後、縁あって編集者に転身。グローバルスタンダードの着こなしを意識したのは、23歳のときに移籍したインターナショナル誌で体験した海外取材がきっかけでした。以来、毎年のようにイタリアやフランス、イギリス、スイスといった国に足を運び、クラシックの重鎮からモートの旗手まで、さまざまな人物と取材を通じて交流。その一方で国内にも目を向け、多彩なジャンルにおける一流を五感で理解しようと努めてきた経験が、幼いころから育まれた審美眼に磨きをかけ、豊かな感受性を養うことにつながっていきます。
現在は、編集者という枠を大きく飛び越え、日本各地の繊維産地の工場と一緒にファッションブランドを立ち上げ、ディレクション業務にも従事。世界から注目されるファクトリーブランドの育成に取り組んでいます。

そんなセンスのかたまりのような干場さんに、着こなしが上達するコツを聞いてみると、思いがけない答えが返ってきました。
「センスももちろん大切ですが、その前に身につけておかなければいけないのが知識です。例えば、スーツを着こなすうえでは、いくつものルールが存在しますが、そうした基本を理解していないと、海外のVIPを相手にするような舞台ではまったく通用しないんです」
西洋の長い歴史のなかで培われてきたファッションのルールやドレスコードは、海外ではいわば教養の一部のようなもの。それを知らないと、場の雰囲気を壊してしまったり、一緒に参加した人に気恥ずかしい思いをさせてしまうこともあるといいます。
「前提にあるのは、周囲に対する思いやり。スーツに限らず、“いつ”“どこで”“どんな場面で”“誰と”“どんなスタイルで”という5軸で考えると、その場にふさわしい着こなしがイメージしやすいと思います」

— 自分に似合うものをとことん突き詰める

さらに、自分に似合うものを知っている人は素敵に見える、という干場さん。そのためには、男女を問わずオーダーメイドに挑戦するのがおすすめだそうです。自身も洋服選びでは、着る人を引き立てるシンプルなデザインで、上質な素材、体型に合ったサイズを何よりも重視しています。
「僕がよく使うのがスタイルという言葉。スタイルとは流儀、型と言い換えてもいいかもしれません。自分に似合うものを突き詰めていくことが、スタイルの確立につながると思うんです」

それゆえ、服を買い足すときはよりよいものを選んでブラッシュアップすることは心がけても、ベースとなるスタイルは数十年変わっていないといいます。
まさに多忙を極める干場さんですが、その原動力となっているの何なのでしょうか。
「やっぱり、自分を育ててくれたファッション業界に恩返しをしたいという気持ちが大きいですね。そのために、僕のこれまでの経験や知識を、少しでも多くの人に伝えることで地方を盛り上げ、業界全体の活性化に貢献したい。日本の繊維産業を守るためにも、世界中から注目されるファクトリーブランドを、日本から発信したいと考えています」
そんな干場さんのストイックな着こなし哲学に触れられるトークショーを近日開催します。人気スタイリストの大草直子さんとの対談にご期待ください。