— 引退後は、本格的にトライアスロンを開始

 「ロンドンの200mバタフライは悔しかったですけど、あとの3回は素直に嬉しかったです。リオでは自分のパフォーマンスが落ちてきていて、そこでやるだけのことはやったので達成感がありました。引退は寂しさもありましたが、同じくらい将来への楽しみもありました」
 そう語るのは現在、スポーツ団体のアスリート委員を務めるなどスポーツの普及活動を中心に、テレビや新聞などでスポーツジャーナリストとしても活躍する松田丈志さん。競泳選手として2004年から2016年まで4度のオリンピック出場を果たし、2008年北京五輪200mバタフライ銅メダル獲得。2012年のロンドン五輪で競泳日本代表チームの主将を務めました。2016年のリオ五輪では当時32歳日本競泳界最年長で出場を果たし、800mフリーリレーで52年振りの銅メダルを獲得した競泳界のレジェンドです。
 宮崎県で生まれた松田さんは4歳で水泳を始めました。その後、めきめきと頭角をあらわし、2003年に中京大学へ進学したころには日本を代表するスイマーとなりました。そんな松田さんは2016年の引退後、本格的にトライアスロンを始めたと言います。
 「引退してからやってみたかったのがフルマラソンとトライアスロンです。フルマラソンはすでに3回走っています。トライアスロンは3年目になりますね。今年の9月に佐渡国際トライアスロン大会という国内では最も長い距離のレースに出場する予定です」
 その大会は過酷さでも有名です。
 「まず海を4㎞泳ぎます。そのあと自転車で佐渡島をほぼ一周、190㎞を走り、最後にフルマラソン(42.195㎞)。15時間以内に完走しなければなりません」
 走るのはやはり泳ぐのとは異なるのでしょうか。
 「だいぶ慣れましたが、やはり陸の衝撃は違いますね。体重もかなり絞らなければなりません。でも、単純に絞るだけでは15時間のレースに耐えるだけの筋力が足りなくなります。その辺の調整をプロの方のアドバイスをいただきながら半年かけて仕上げていきます」

— これまでお世話になったスポーツに恩返しがしたい

 何十年もストイックな世界に身を置いて、引退してもなお過酷なスポーツをやる理由を聞いてみました。
 「常に成長したいという気持ちがあります。スイマーのときは自己記録の更新、過去の自分を超えることばかり考えていました。そして引退しても、その気持ちを忘れたくなかったのです。セカンドキャリアではさまざまな選択肢があったかもしれませんが、どこまでいっても私はスポーツの人間であり、これまでお世話になったスポーツに恩返しがしたいと思ったのです。そのために、自身がスポーツをやっている姿を見ていただき、スポーツの楽しさを社会に伝えたいと考えています」
 アスリートの人生は引退後の方が長く、セカンドキャリアは社会問題にもなっています。
 「スポーツ選手のセカンドキャリアの解決として、横浜と辻堂でスポーツジムを経営しているので、そこで働く機会を作っています。微力ですが、スポーツ界に貢献したいですし、スポーツで社会に貢献したいと願っています」

— スポーツジャーナリストとして注目の水泳選手は?

 どこまでもストイックに情熱一杯にスポーツ界のことを考え、行動している松田さんですが、一児の父親でもあります。
 「現在、妻が第二子を妊娠中です。毎日忙しく駆け回っていますので、休日くらいは家族サービスに努めないとですね」
 食べることもお好きだとお聞きしましたが。
 「子供がいるので外食できる店が限られます。もっぱら家でみんなで食べることが増えましたね。夫婦二人のころはイタリア料理によく行きました」
 中京大学在学時に名古屋にはよく来られましたか?
 「校舎や合宿所は豊田市にあったので、しょっちゅうというわけではなかったのですが、うなぎを食べたり。また食べたいですね。あと、日常が水着とジャージなので、その反動で学生時代はファッションにすごく興味がありました。ミッドランド スクエアにも行ってましたよ」
 春らしい淡いグリーンのジャケットとホワイトパンツが、松田さんの爽やかさをさらに際立たせます。
 「現役時代はもう二回りくらい体が大きかったので既製ではなかなかサイズが合う服がなかったんです。スーツやシャツはオーダーでしたね」
 最後に、いま注目の水泳選手を伺いました。
 「瀬戸大也は勢いがありますね。順調に大会へ向かっています。大橋悠依と渡辺一平にも期待しています。あと自由形の松元克央は金メダルが取れたら日本史上初なので楽しみです」
 夏の世界大会まであとわずか。その現場でスポーツジャーナリストとして活躍する松田さんの姿にも注目したい。そしてその後は、トライアスロン大会を応援しましょう!

Profile

競泳オリンピックメダリスト/スポーツジャーナリスト

松田丈志さん

Takeshi Matsuda

1984年宮崎県延岡市生まれ。現在はスポーツ団体のアスリート委員を務めるなどスポーツの普及活動を中心に、スポーツジャーナリストとして、スポーツ ニュース、執筆、講演、またトライアスロンやオーシャンスイムに挑戦するなど幅広く活動中。