端的に言うと、今までにない新たな視点をデザインに取り込んでいきたいという思いから、コンテンポラリーデザインと称しています。モダン・デザインの概念が生まれてもう150年ほどは経っているでしょうか。日本では、第二次世界大戦後の1950年代から、デザインが意識されるようになり、以来、右肩上がりで発展していきました。デザインは、今では広い意味で使われるようになり、成熟していると言っていいと思います。現代のデザインのメインストリームは、大量生産をするための効率的なデザインや、コミュニケーションを促進するためのわかりやすいデザインが主流です。しかし、デザインにはもっといろいろな役割があってもいいと思いますし、デザインのメインストリームの枝葉を作りたいのです。それらは細かい枝葉かもしれないけど、20年後には大きな幹になっているかもしれない。デザインって何やってもいいんだと思いたいし、思わせたい。そんな気持ちをコンテンポラリーデザインに込めています。ヨーロッパではコンテンポラリーデザインという言葉は一般的に使われていて、デザイナーたちも新しいデザインを模索している人が多いのです。日本で私たちの活動がその礎になれたなら、と思っています。
デザインは、社会のためにあるものだと思っています。一方で、アートは社会のためにつくられる場合もありますが、根本的には個人の自己表現である点が、一番大きな違いではないでしょうか?私はデザインというところに立脚して仕事をしているのですが、手法としては、アートと似たようなことをやっているかもしれません。例えば、お金と時間をかけて1点ものの椅子を作るような、経済的に見ると非効率的なやり方は、アートによく見られるアプローチです。でも、何を目的にしているかが大きく違うと思うのです。コンテンポラリーデザインには、デザインの領域から社会に問題を投げかけたり、デザインの役割を広げたりする役割があると思っています。
初めてお話をいただいた時に「一般的な商業施設とは違った、感性に訴えるアート的なアプローチでコミュニケーションをとっていきたい」と伺いました。その言葉が印象的で、それなら商業空間における新しいコミュニケーションに挑戦できるのではないかと考えました。スポーツがテーマだと伺いましたが、スポーツに直接的につながるものではなくても、スポーツが持つ躍動感とそれを観ている人のワクワクする気持ちが、そこに表現できたら!と思ったのです。そこで、「アナモルフォシス」(※)という手法をとることにしました。地下から25mの吹き抜けは、とても開放感があって魅力的ですから、そこを活用することにしました。また、地下のアトリウムには人が滞留しますが、上階への流れをもっとスムーズにしたいとも感じましたので、上階に来てもらえれば、面白いインスタレーションを探す楽しみがある!ということを多くの来館者に伝えたいと思いました。今まで見たことのない新しい世界とつながるための存在として、今回の作品がミッドランド スクエアでうまく作用してくれるはずです。
※アナモルフォシス
作品を何かに投影したり角度を変えてみたり、特定の場所から見たりすることで、成立した形として見えるようになるデザイン手法のこと。ギリシャ語で再構成を意味する。一番古い例に、レオナルド・ダ・ヴィンチによる1485年の「レオナルドの目」がある。
一階の正面入り口から入っていただいた通路のところに、一つ目のビューポイントがあります。二つ目は、3階のジョンスメドレーの前あたりです。春色の三角形のエレメントが舞うように吊り下がっていますが、ある視点から見たときにのみ、一つの絵が迫ってくるように感じられます。こればかりは、言葉で説明ができませんので、ぜひとも実際に見ていただきたいと思います。頭で想像していた時とは、全く違う感性が刺激されるはずです。スポーツが持っている力で、世界の見え方がある瞬間に変わる!まさに“Sports change your world”のテーマそのものを感じていただけると思います。
Profile
we+ デザイナー
林 登志也さん
Toshiya Hayashi
新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ「we+」を安藤北斗とともに2013年に設立。パリやミラノのデザインギャラリーに所属し、国内外で作品を発表するほか、インスタレーションを始めとしたコミッションワーク、ブランディング、プロダクトやビジュアルの開発などあらゆるプロジェクトを手がけている。