— 愛知県のご出身だそうですね。

 生まれは豊田です。子どもの頃からとにかくモノをつくることが大好きでした。家の中にあるトイレットペーパーの芯やティッシュボックスを組み合わせて自由に工作したり。モノづくりを学びたい、仕事にしたいという気持ちが早くからあって、名古屋市の工芸高校デザイン科に進みました。授業ではプロダクト的な側面もアート寄りの分野も幅広く学べて、いろんな刺激を受けることができました。県美がある栄や、名駅あたりもよく遊びに行きましたね。その後、静岡文化芸術大学空間造形学科に進学しました。

— 映像やメディア専攻ではなく、建築というのはちょっと意外ですが。

 当時から絵画のような平面よりも、彫刻や造形のような立体に興味があったんです。そもそも子どもの頃から、僕の中のキャンバスが2Dではなく3Dだったってことで。入学後に大きな転機になったのが、クラブやコンサートで流れる映像を演出するVJの世界に触れたことです。ミュージックシーンを映像で彩るというのは、もともと自分がやりたかった空間の中での造作と見事に重なって、そういう仕事に就きたいと思うようになりました。
 建築やインテリア、工芸を学びつつ、独学で映像やグラフィックに触れることで、ジャンルの垣根無く経験を積ませてもらいました。今ではそれの経験が発想の種になって、活きていると思います。

NISSAN PAVILION Yokohama | NISSAN

— それで大学卒業後は映像制作の仕事に就いたのですか?

 電飾や映像を扱う会社に就職し、CGデザイナーとしてコンサートやイベントの背景を彩る映像制作を手がけたのち、現在の職場へ移りました。それまでは実制作が中心の仕事でしたが、WOWでは企画から制作・アウトプットまでクリエイティブに携われるシーンもあり、楽しくも責任のある仕事に就かせてもらっています。

光と霧のデジタルアート庭園 | Tokyo Midtown

— これまでさまざまなジャンルの仕事を手がけていますね。

 映像だけでなく、レーザーを動かしたり電飾を光らせたり、確かにアウトプットの手法はさまざまですが、誰のために作る空間なのか、感動や経験を届けるという目的は、どんな施設、商品、サービスであっても共通なんです。

落合陽一×日本フィルハーモニー交響楽団プロジェクトVOL.4《双生する音楽会》

— 今回ミッドランドスクエアのオファーをどのように感じましたか?

 僕が大学入学で愛知を離れた頃にオープンした施設なので、実はそれほど詳しくなかったんですが、ミッドランドが名古屋を代表するハイクオリティなランドマークだと知って、そのエレガント、ラグジュアリー感にプラスした新しい切り口を提案したいと思いました。それとこの仕事を通じて地元に貢献できるというのは、大変嬉しいしやりがいを感じましたね。
 初めにお話をいただいた際に、「15年間の感謝の気持ちをお客様に伝えたい」という大きなテーマがありまして。その中から「旅」というキーワードが生まれて、企画をどんどんブラッシュアップしていきました。

— コロナ禍のいま、旅はまさに多くの人が渇望しているモチーフですね。

 そうなんです。旅には、行ってみたい、行ったことがある、そういう憧れや回想をかき立てる、特別な想いが誰しもあると思います。心ときめかせる物語を繰り広げながら、同時に未来への希望も届けようと考えました。
 ファッション島、レストラン・カフェ島、ラグジュアリー島、シネマ島、スカイプロムナード島というミッドランドの5つの島々をめぐる旅と設定し、CG映像とサウンドで表現しています。「あそこ行ったことある、あのお店だ、これ食べたね」と、お客さん同士の会話が生まれ、思い出話が弾んだり。その場が華やいで心が沸き立つようなきっかけを提供することで、ミッドランドからの感謝の気持ちを表せたら良いなと願っています。

— ミッドランドスクエアの魅力的なアイコンが次々に登場して、めくるめく旅に誘われます。見どころやこだわった点について教えてください。

 通り抜けたり待ち合わせ場所にもなるスペースなので、ふと立ち止まって気軽に眺められる、何回も繰り返し見て面白いと思える「およそ2分弱」という長さにはこだわりました。その最適な尺の中で、たとえば自転車のタイヤが回ってるとか、ポップコーンがはぜて降ってくるとか、細かい動きひとつひとつの小気味よさには非常に気を遣っています。シネマ島を象徴する映画フィルムには、15年の歩みを振り返るキャンペーン画像を嵌め込んだり。手の込んだ仕掛けをいたる所に散りばめました。映像に重ねるアンビエントな音楽も、主張しすぎず埋もれすぎず絶妙なラインで、なおかつ雰囲気があるものを作れたと思います。

— そうしたコンテンツをつくるうえで大切にしているのはどんなことでしょうか?

 音楽にしろ、アニメーションにしろ、レイアウトにしろ、「気持ちいい」という感覚は大事にしています。
 それと「流行にとらわれない、流行り廃りに惑わされない」というのも重要かなと。最先端の技術やセンスを知る必要はもちろんあるんですが、そればかり追いかけて頼りすぎると結果的に消費されてしまう。やっぱり「いいものはいい」という感覚は絶対に持ってないといけない。たとえば使い古された技術であっても、それにふさわしいタイミングや使い方は必ずあると思います。そうした感覚で世の中のあらゆるものを捉える目線が、ある意味、センスや発想の磨き方につながってくるんじゃないでしょうか。
 今回使ったコラージュも昔ながらの技法ですが、「旅」というプロジェクトにマッチしていると思ったんです。旅行って、たくさんの体験の集合だと思うんです。旅のいろんな思い出をスクラップブックに敷き詰めるみたいに、アナログ感のある写真やイラストレーションのコラージュを採用しました。

— 近藤さんの作品は、これからどうなっていくのでしょう?

 どうなっていくんでしょうね。信条として大事にしているのは、とにかく「やってみる」こと。やらずに終わっちゃうよりは、やって失敗した方がまだいいので。企画を練る時も、つくりながらテストしながら試行錯誤の繰り返しです。やってみて初めて、新しいアイデアが見つかることもいっぱいありますし。
 手先を動かして集中して何かをつくっている時が、自分の中では本当に幸せな時間です。それは仕事であっても仕事であることを忘れるくらい。子どもの頃から変わらず、これからもずっと同じでしょうね。

EXPERIENCE A NEW ENERGY「INTERACTIVE WALL」 | SHISEIDO

Profile

ビジュアルデザインスタジオWOW
ディレクター

近藤 樹さん

Tatsuki Kondo

愛知県豊田市生まれ。静岡文化芸術大学卒業後、TV番組やイベント、コンサートの映像制作を経て現職。ジャンルや技術などさまざまな枠組みや境界にとらわれず、体験者の心を動かせるよう心がけている。

東京、仙台、ロンドン、サンフランシスコに拠点を置くビジュアルデザインスタジオ。CMやコンセプト映像など、広告における多様な映像表現から、さまざまな空間におけるインスタレーション映像演出、メーカーと共同で開発するユーザーインターフェイスデザインまで、既存のメディアやカテゴリーにとらわれない、幅広いデザインワークをおこなっている。さらに、最近では積極的にオリジナルのアート作品やプロダクトを制作し、国内外でインスタレーションを多数実施。作り手個人の感性を最大限に引き出しながら、ビジュアルデザインの社会的機能を果たすべく、映像の新しい可能性を追求し続けている。

https://www.w0w.co.jp/